イリヤの空、UFOの夏

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秋山瑞人
これはすごい。ライトノベルと言うジャンルが激しく嫌いなので読み損ねるところだった。蕩尽される物語たちのなかに屹立する異能だ。すばらしい。
前半二巻のユーモアにくるまれた文章は、叙法表現*1が多いのにべったりしないドライな文体で、リズムがある。「すればいいのに」や「だろう?」がこんなに印象的に使えるなんて本当に驚きだ。
でももっと素晴らしいのは、世界の脆さと喪失を突き付けて来る後半の緊張した展開だ。
だいたい、今の読者は虚構の中のちょっとした不幸にすら耐えられない腰抜けばかりだ。物語なんて求めてない。欲しいのは分かりやすいコードの羅列だけだ。作者もそのことは分かってるだろうに、でもこういう風にしか書けない人なんだ。それが素晴らしい。涙が出そうだ。
いい本に出会った。

*1:モダリティ。話者の心的判断を標示する。